伊崎喬助 『RWBY the Session』 (ガガガ文庫)

RWBY the Session (ガガガ文庫) (ガガガ文庫 い 7-4)

RWBY the Session (ガガガ文庫) (ガガガ文庫 い 7-4)

「相手のことを知ればわかり合えるというのは、都合のいい幻想だ。知るほどに生まれる断絶もある」

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夏季休暇を南国の島で過ごすことになったRWBYとJNPRの8人.多数のドローンがもてなすリゾート施設を訪れた彼らだったが,とあるいさかいから,ふたつのチームは混成の即席チームに分かれて行動することになる.

RWBY』の公式ノベライズ.Volume1とVolume2の間の話とのことだけど,原作を見ていないしストーリー自体もまったく知らないまま読んだので関連についてはよくわからない.申し訳ない.

そこは置いておいて.物語はまさに王道の活劇というか,バディものならぬチームものというか,非常に痛快なものになっている.何よりキャラクターの個性が強い.一気に8人以上のキャラクターが出てくるので,原作を知らないと最初は戸惑うのだけど,いちいち個性が強いのですぐに区別がつくようになるし,愛着が湧くようになる.このがやがや感はまさに「Session」.題材的に,作者にはうってつけのノベライズだったのではないかな.原作が好きなひとならおそらく楽しめると思うし,デビュー作(感想)が好きで買った自分のような者でも楽しめると思う.良いものでした.

白樺みひゃえる 『世界の終わりに問う賛歌』 (ガガガ文庫)

世界の終わりに問う賛歌 (ガガガ文庫)

世界の終わりに問う賛歌 (ガガガ文庫)

「……先生は、自分が失敗した原因はなんだと思いますか」

「そうだな、いくつかあるが……」

思案顔をし、言った。

「一番は炉心が人間だったこと、かな」

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魔導が衰退し,世界には科学技術が発達しつつあった.ヴィルトハイムファミリーの構成員である拷問官,ブルクハルトは,相談役(コンシリエーレ)から任務を与えられる.それは,「次世代型発魔炉」の開発プロジェクトに参加し,とある少女をできるだけ長い間殺さずに痛めつけることだった.

第11回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作.あらすじを読んでSFかファンタジーかな,と思っていたら,エネルギー問題解決のため,拷問相手をいかに殺さず長期運用するか,プロジェクトで取り組むのが物語の柱だという.思わぬところから話が始まってびっくりしたのだけど,意欲的すぎるテーマにあっという間に引き込まれた.拷問にペインコントロールの概念を持ち込むのも驚いたのだけど,ひょっとして拷問業界では一般的なんだろうか.

思わせぶりな伏線(のようなもの)が回収されずに置かれたり,全体的にとっ散らかった印象も強い.特に後半は荒っぽいのだけど,意欲的なテーマをごちゃっとぶち込んだ作者の姿勢は買える.良い意味での新人らしい勢いがある.楽しゅうございました.

水坂不適合 『ひきこもり姫を歌わせたいっ!』 (ガガガ文庫)

ひきこもり姫を歌わせたいっ! (ガガガ文庫)

ひきこもり姫を歌わせたいっ! (ガガガ文庫)

もっと。もっと音楽に純粋にならないと。

俺は天才じゃないのだから。

人が休んでいる間に努力して、がんばってる間だってそれ以上に。

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蒼山礼人はロックで食っていくことを夢見ている高校生.しかし,彼は超絶的な音痴だった.そんな礼人はある日「本物」の歌声を持つ少女,灯坂遙奈と出会う.しかし,彼女は「ひきこもり姫」と呼ばれる不登校少女だった.

信じていればなれるものになれる,と信じて突き進む少年が出会った天才少女はひきこもりでした.第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞受賞作のバンド,青春,ロックンロールなボーイ・ミーツ・ガール.努力では才能をひっくり返せないかもしれないけど,それでも得られるものはいろいろあるのだ,みたいな.ストーリーはオーソドックスな方だと思うけど,押さえるべきところはしっかり押さえて,言うべきことははっきり言う.驚くような展開はないけど,抑揚の効いた青春小説だったと思います.

遍柳一 『平浦ファミリズム』 (ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

「傷つけられることもある。裏切られることだってあるかもしれない。だが、そうやって何度も信じて行動し続けた先に、それでも君の隣にいてくれる人たちがいたとしたら、それが君にとっての、かけがえのない他人なんだよ」

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5年前,ベンチャー企業の社長だった母を亡くした平浦一慶.フリーターの父,トランスジェンダーの姉,ひきこもりの妹とともに,4人だけの家族として生きていた.学校生活は退屈だが,この家族さえいれば幸福だった.

家族さえいれば他に誰もいらない,そう思っていた.第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞受賞作.先生やクラスメイトといった「他人」に徹底して無関心かつ無期待な主人公の語りがひたすら青臭くて,章題を哲学や政治学から取っているのも含め,ただただしゃらくさい.だがそこが良い,みたいな青春小説であり家族小説.自分たちだけの幸福で完結し,内側に閉じていた家族が,ある事件をきっかけに社会に開いていく.崩壊した家族がまとまっていく家族ものはよくあるんだけど,逆のパターンはわりと珍しいと思う.

他人の善意は信じず,他人の正義は自己満足のナルシシズム.そういうものを,本当に徹底して,冷ややかで尊大な視線から描いているのがすごいと思う.そんな感じなので,ひとによって好みが割れそうな気がする.個人的にはとても良かったと思うし,次回作にも期待したいと思っております.

江波光則 『屈折する星屑』 (ハヤカワ文庫JA)

屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)

屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)

何も起きないと思っていた。何かを起こさなければやっていられないと考えていた。

暴走を繰り返し薬物と酒に酔い、また暴走して燃やし尽くさなければ何一つ愉しくも何ともない憂鬱だけが支配している世界だと思っていた。それほど世界は甘くなかった。起きる時は起きてしまう。

それが今のこの有様で、そして今の俺は酩酊病どころか、ただの間抜けに過ぎなかった。

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ここは太陽系に浮かぶ廃棄指定済の円筒形コロニー.ここで生まれ育ったヘイウッドとキャットはホバーバイクにまたがり,5つの人工太陽と円筒形の地面への命知らずのチキンレースを繰り返していた.鬱屈した毎日を送る彼らの前に,火星から亡命してきた軍人ジャクリーンが現れ,停滞したコロニーが動きはじめる.

“地球に落ちて来た男、デヴィッド・ボウイに捧ぐ。”.読み終わって帯を見返すまで気づかなかったのだけど,固有名詞のほとんどはデヴィッド・ボウイから取っているのね.おそらくストーリーもリスペクトしているんだろうけど,自分にはほぼわからない.申し訳ない.

何もない片田舎での,恋人とバイクだけにかまけていた日々が,外から現れた人間によって終わりを告げる.王道の青春グラフィティだと思う.円筒形コロニーという,使い古されたモチーフがまた雰囲気を出している.しかし,ちっぽけで古びた世界が打ち破られる変化やカタルシスより,どうしようもないやるせなさが全体にまとわりついている(読めば理由はわかるけど).わかりやすいけど単純ではない,鬱屈した行動原理が本当に息苦しい.王道で,良い青春グラフィティだと思います.