周藤蓮 『賭博師は祈らない②』 (電撃文庫)

賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)

まるで初めて恋をした少年のようだ、と自嘲する。二十も半ばになった男が、口説き文句でもない言葉で、これほど照れることもあるまいに。日頃から多くのことをどうでもいいと切り捨ててばかりきて、心の一部はすっかり衰え切っていた。

それでもはっきりと、これだけは声にする。大抵のことを誤魔化してきた自分の言葉が、真実であるように聞こえれば良いと願いながら。

「お前のことを、どうでもいいとはいわない」

言葉にするとその事実はすとんと胸に落ちた。

Amazon CAPTCHA

リーラを救うため,賭博師“ペニー”ラザルスがブラック・チョコレート・ハウスで大暴れして一週間が経った.名前が知られ,ロンドンの賭場に通えなくなってしまったラザルスは,ほとぼりを冷ますためしばらくバースに滞在することにする.その途中,強盗に遭ったふたりは,ノーマンズランドという村に立ち寄ることになる.

18世紀末のイギリス.勝たない賭博師ラザルスと言葉を話せない褐色の奴隷少女リーラの物語第二巻.一巻(感想)からさらに良くなっていると思う.リーラが置かれた「異国生まれの奴隷」という存在の意味を軽く扱わず,かといって変に重い話にするでもなく,きちんと消化した上で読みやすいエンターテイメントに仕立てている.作者のバランス感覚のなせる技だと思う.ギャンブルの場面のテンポと緊張感も良いし,隙あらば挟み込まれるイギリスのうんちくも一巻同様で楽しい(今回はほとんどわからなかったけど).良いものでした.この二冊で,本当に好きなシリーズになりました.

深沢仁 『英国幻視の少年たち5 ブラッド・オーヴァ・ウォーター』 (ポプラ文庫ピュアフル)

ランスは十秒くらいじっとしていたが、やがてかすかに首をかしげた。

「これは、ケンカ?」

俺は右手で額を押さえる。

目の前にあるのがちゃぶ台じゃなくてよかった、と思った。

馬鹿でかくて重たいテーブルじゃなかったら、ひっくり返していたにちがいない。

Amazon CAPTCHA

エドからロンドンへの引っ越しを提案されたカイ.ウィッツバリーへ残るか,ロンドンに移るか,はたまた日本へ帰るか.答えを保留し,ウィッツバリーの自宅へ戻ったカイは,いつもどおりの態度のランスとケンカになる.そこへ訪れた不穏な訪問者.

シリーズ5巻.相変わらずぼんやりとしているくせに誰よりもカイを気にかけているランス.カイの言動にやきもきするカイ.登場人物が掘り下げられるにつれて,文章表現がどんどん繊細になっていくのがたまらない.というか,なんか今までにもましてカイとランスのいちゃいちゃが加速していませんか.

静かなテキストで語られる「魂」という枷の重さにずんと来るものがある.見ている範囲ではあまり読まれている印象がないんだけど,本当に良い現代ファンタジーだと思うので,もっと読まれると良いと思うのです.

川岸殴魚 『勇者と勇者と勇者と勇者 5』 (ガガガ文庫)

かつて、といってもたかだか数週間前だが、ルディは勇者としていかに生きるべきか迷っていた時期があった。

そんな折にルディはロットと出会った。

そしてロットの自由奔放でなにものにもとらわれない古き良き勇者のスタイルに憧れ、行動を共にした。他人の家に勝手に上がり込み、クローゼットをあさり、道具屋の宝箱を無断で開ける。そんな日々……。

その結果、かなりの速度で憧れは消え、むしろ軽蔑の念すら湧き起こったのだった。

Amazon CAPTCHA

馬鹿の賢者,ソニアが再びコーポ勇者を訪れた.彼女はこの安アパートの地下にかつての魔王城が眠っていると馬鹿なことを言う.そんな馬鹿なと笑うルディだったが,床板の下の螺旋階段の先には謎の広大な空間が広がっていた.

「勇者あまりの時代」を描いたコメディの最終巻にして,薬物依存の悪循環の図をテキストだけで表現した最初の小説だと思う.物件の支配者たる大家といい,“どこの業界にもいる、なんだかわからないけど、偉い人の周りでフラフラしているフリーのおじさん的ポジション”といい,いつもながら,着眼点とギャグの切れはほんとにすごいと思うし,ちゃんとハッピーエンドで〆てくれるのもいい.「邪神大沼」,「人生」に引き続き,安定して楽しゅうございました.次回作も楽しみにしております.

枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #4』 (スニーカー文庫)

悲しい話は、聞き飽きたのだ。絶えた未来の話に顔を伏せるのは、もう嫌なのだ。だから、この閉塞感に押しつぶされそうな状況の中に少しでも明るい材料があるのならと、全力で食いついた。

Amazon CAPTCHA

フェオドールとラキシュは逃亡した.ふたりを追う任務を負ったティアットは,潜入先の11番浮遊島,コリナディルーチェ市へと赴く.そこはかつての「エルピス事変」が起こった古い街だった.

始まりの事件の街に,始まりのきっかけとなる人々が集まり,黄金妖精(レプラカーン)の秘密がまたひとつ明らかになる.もう語ることもあまりないのだけど,ただただ「終わり」を描いてきた物語も終わりが近いのかな.いくつかの伏線を引きながら,静かにゆっくり終わりに向かっていく感覚.と言ってもあとひと波乱ふた波乱はありそうだし,良い意味でも悪い意味でも裏切ってくれそうな雰囲気はひしひし感じるんだけどね.

紫野一歩 『あのねこのまちあのねこのまち 壱』 (講談社ラノベ文庫)

あのねこのまちあのねこのまち 壱 (講談社ラノベ文庫)

あのねこのまちあのねこのまち 壱 (講談社ラノベ文庫)

今日この日、あの猫の町に電車は停まる。

Amazon CAPTCHA

地図にあるのにたどり着けず,駅があるのに電車が停まらない町,夕霧町.妖怪たちも住むこの町では,一匹の猫又がよろず相談屋を営んでいた.たまたまこの町にたどり着いてしまった高校生,幸一は,ある相談を持ちかけたことで,猫又のフミに振り回されることになる.

少し不思議な町の優しく悲しい怪異譚.第6回講談社ラノベチャレンジカップ大賞受賞作.なんというか雰囲気が抜群に良く,物語にすいっと入れる.妖怪の商店街といい,みんなを幸せにしたいと言うわりに私生活がだらしない猫又フミといい,良い具合に力の抜けたテキストと良く噛み合って,ふわふわしつつしっかりとした存在感を出していると思う.ただ,後半の展開は好かない.というか前半二話と後半二話で物語の方向性自体がけっこう変わっていた気がするんだよね.タイトルに「壱」とあるから,続編でフォローするのかもしれないけど,救いがまったくない話と読んでしまった.個人の好みの問題かもしれないけど,前半が良かっただけに,後味が悪すぎて…….