岡本タクヤ 『異世界修学旅行6』 (ガガガ文庫)

異世界修学旅行 6 (ガガガ文庫)

異世界修学旅行 6 (ガガガ文庫)

「魔王は、人間に興味があるのかもしれません」

「ほう?」

「人は何故過去に留まらず、前に進もうとするのか。その答えが知りたいのかもしれません。だからこそ、甘やかな過去を見せて人を誘惑する」

「ふむ」

「……仮説ですが」

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異世界に飛ばされた仲間を探して修学旅行中の沢木たちは,とうとう魔王城(魔王討伐済み)にたどり着く.しかし,城に足を踏み入れた面々を待ち受けていたのは,制服姿のプリシラと,入学式の日の幻だった.

修学旅行「前」のクラスの様子が明らかになる第六巻.明らかにおかしなシチュエーションを舞台にしながら,これまでになく素直で良い青春ものになっているのが面白い.シリーズでここまでやってきたギャグと楽屋落ちが,しっかりキャラクターを活かすための土台になっていたことがわかる.ベタと言っちゃえばベタだけど,これだけのテキストで学校の雰囲気を出せるのはすごい,というかやはりうまい.修学旅行もそろそろ終わりが近い雰囲気.追えば追うだけ味の出るシリーズだと思うし,皆も読んでみるといい.

小川哲 『ゲームの王国』 (早川書房)

ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

ゲームの王国 下

ゲームの王国 下

革命により、オンカーは有史以来、人類を長らく悩ませていた問題のいくつかを完全に解決した。借金苦による自殺、詐欺、汚職、賄賂、泥棒、強盗。すべてなくなった。綺麗さっぱり完全に消滅した。

どうしてそんなことが可能だったのか。答えは「私財がなくなったから」だ。まず貨幣という概念がなくなった。すると人々が物々交換を始めたので、これも禁止した。私有や財産が存在しない社会なのだ。こうしてパンドラの箱以来あった種々の犯罪のうち、約半分が一瞬にして消え去った。もちろん、犯罪とともに自由、愛、家族、その他諸々の概念も消失した。

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1975年のカンボジアクメール・ルージュによって首都が陥落した夜に,後にポル・ポトと名乗ることになるサロル・サルの隠し子ソリヤと,寒村で生まれた神童ムイタックがプノンペンで出会う.

不条理で滅茶苦茶なルールのもと,革命と虐殺と恐怖政治が進むカンボジアを描く上巻と,その50年後,復讐と「ゲームの王国」の実現を描く下巻からなるハヤカワSFコンテスト受賞後第一作.弾圧と虐殺の緊張感と,マジックリアリズム的なユーモアが両立した不思議な群像劇の語りが,現実と幻想の間にある奇妙な時代を浮かび上がらせていた,のだと思う.

いわゆる「伊藤計劃以後」の作品であり(もともとは「伊藤計劃トリビュート2」の収録作),問題意識が似通っているところもあるためか,読後感に新鮮みは薄いかもしれない.しかし,人生や社会をルールのあるゲームに例えた小説はいくつもある(最近は特に多い気がしている)なか,このアプローチでこれだけの大作かつ力作はそうはない.良いものでした.

屋久ユウキ 『弱キャラ友崎くん Lv.4』 (ガガガ文庫)

けどまあやっぱり昨日も思ったとおり、誰も不幸にならずみんな笑顔で、温かい空気に包まれたままこのイベントが終わり、これからもいつもどおりの日常が続いていく。なんて素晴らしいハッピーエンドなのだろうか――

――なんてほど甘くないのがこの『人生』というゲームなのだと、俺はこのあとすぐに知ることになる。

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夏休みが終わり2学期が始まった.日南から出された次の課題は,球技大会にやる気のないクラスのボス格の女子に,やる気を出させることだった.

やりたいことをやることにした友崎と,ただひたすら合理的に前を向く日南.考え方は違うけど,じゃあ人生ってどう生きるのがいいのよ,みたいな青春の葛藤を描く人生攻略ラブコメ第四巻.ふたりの姿を対照的に浮かび上がらせながら,ひとつのハッピーエンドと,その後の新しい出来事を描いてゆく.いかにもな学園ラブコメのフォーマットの上に,もう一枚のレイヤーが乗っている感じと言うのかな.観察して考えて努力した結果どうなったか,の因果関係をしっかり描いているのはやっぱ好感が持てるし,それだけで終わらせないのも良い.コスパの良い努力を積み重ねて,大きな結果をつかむのが結局は近道なんだけど,人生はハッピーエンドの後も続くのだ.後半,というかラストはかなり意外な展開だったのだけどどうなるんだろう.楽しみにしております.

オキシタケヒコ 『筺底のエルピス5 ―迷い子たちの一歩―』 (ガガガ文庫)

その背後に堆く積み上がっているのは、七十億にも及ぶ、焼け焦げた骸の山。

この光景は、私だけのもの。私だけの地獄。

あの世界は確かにあった。そこに自分は生きていたのだという、証明なのだ。

「わけてなんか……あげない……あなたなんかに」

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70億の人類を犠牲にした捨環戦の決着の,その後の話.この世界は地獄でしかなくなってしまったからこそ,もうあがいてあがいて出口を探すしかない,という光明.どなたかも言っていたけど,「優しい地獄」だと思った.絶望でしかなかった四巻(感想)のラストからどう続くのかと思っていたら,これ以上ない「再起と転換」を見せていただいた,みたいな.

緊張感とスピードを伴うアクションも良い.停時フィールドを使ったアクション,使わないアクション.9章と10章だけは妙にボンクラめいていて,板垣恵介の絵柄で脳内再生されました.本当に傑作だと思います.

周藤蓮 『賭博師は祈らない②』 (電撃文庫)

賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)

まるで初めて恋をした少年のようだ、と自嘲する。二十も半ばになった男が、口説き文句でもない言葉で、これほど照れることもあるまいに。日頃から多くのことをどうでもいいと切り捨ててばかりきて、心の一部はすっかり衰え切っていた。

それでもはっきりと、これだけは声にする。大抵のことを誤魔化してきた自分の言葉が、真実であるように聞こえれば良いと願いながら。

「お前のことを、どうでもいいとはいわない」

言葉にするとその事実はすとんと胸に落ちた。

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リーラを救うため,賭博師“ペニー”ラザルスがブラック・チョコレート・ハウスで大暴れして一週間が経った.名前が知られ,ロンドンの賭場に通えなくなってしまったラザルスは,ほとぼりを冷ますためしばらくバースに滞在することにする.その途中,強盗に遭ったふたりは,ノーマンズランドという村に立ち寄ることになる.

18世紀末のイギリス.勝たない賭博師ラザルスと言葉を話せない褐色の奴隷少女リーラの物語第二巻.一巻(感想)からさらに良くなっていると思う.リーラが置かれた「異国生まれの奴隷」という存在の意味を軽く扱わず,かといって変に重い話にするでもなく,きちんと消化した上で読みやすいエンターテイメントに仕立てている.作者のバランス感覚のなせる技だと思う.ギャンブルの場面のテンポと緊張感も良いし,隙あらば挟み込まれるイギリスのうんちくも一巻同様で楽しい(今回はほとんどわからなかったけど).良いものでした.この二冊で,本当に好きなシリーズになりました.