野崎まど 『ファンタジスタドール イヴ』 (ハヤカワ文庫JA)

人間らしさ。
それは、人間であった私が渇望するのはおかしく、けれど、持っていないのならば、体を掻き毟って望まなければならない、人が生きる上で、必ず無くてはならぬものであった。彼らは私に、それを与えた。私のような人に足らぬ男に向けて、人間として社会の中で生き、そしてついには幸せになれるような、極上の道を示していたのである。

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理想の女性(ファンタジスタドール)
それが私の、唯一の、希望である。

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「それは、乳房であった」という男の独白から始まる,アニメ『ファンタジスタドール』の前日譚.昭和の文学のような大胆さと繊細さを併せ持った描写で,『ファンタジスタドール』の闇を綴る奇想SF.女性の肉体(≒おっぱい)に魅入られ,自分が人間らしさを持たぬことに悩む男は,やがて自ら人から離別することを選ぶ.ひと言で言い表すなら「変態に技術を与えた結果がこれだよ!」だと思うんだけど,よくもまあこれだけの理屈を作り上げたものだと不思議な感動を覚える.巻末の年譜も楽しい.読み終わってからもいろいろ考えてしまうというか,「じわじわくる」小説というのはこういうものかと思い知ったことです.ノベライズだからとかそういうことは気にする必要はない.読んでみるといいさ.