紙吹みつ葉 『ひな×じん 鎖の少女と罪悪感の天秤』 (ファミ通文庫)

ひな×じん 鎖の少女と罪悪感の天秤 (ファミ通文庫)

ひな×じん 鎖の少女と罪悪感の天秤 (ファミ通文庫)

意思を持った懐中時計・ジンと,それを首に引っかけネットカフェで寝泊まりする少女・雛菊.ひととの関わりを避けて生活していた彼女が SNS を通じて知り合った女性と会うことを決めたときからこの物語ははじまる.欲求を奪って成長する懐中時計と,それを持つゆえに一期一会以上の関わりを持てない少女の出会いと別れのお話.
どことなく『クダンの話をしましょうか』のようなバックボーンを感じる話だけど,元気で行動的で語尾が「っス」のヒロインに引きずられるように話の雰囲気は対照的.機械的なメッセージしか発せなかったジンが欲求を取り込むことで少しずつ個性を獲得していく様子が面白い.意思を持った呪いの懐中時計のくせに,音声やテレパシーではなくケータイへのメールでコミュニケーションをとるってのがいかにも現代的っスね.説明調が強い序盤や,一昔前のアイドルの親衛隊みたいなクドいネットコミュニティの描き方など,話運びはどっちかというとぎこちなさが目立つかな.でも,一方的に欲求と記憶(良いものも悪いものも)を奪い,意図せず「人生を変える」力,というアイデアはすごく面白いと思うんだ.クドさがあまり良い方向に出ていないこと,そしてその面白いアイデアを正直あまり生かし切れていないのがもったいなく感じる.けど続きが出るならひょっとしてひょっとするかも? 期待くらいはしてもいいよね,と.