アーサー・C・クラーク/平井イサク訳 『白鹿亭綺譚』 (ハヤカワ文庫SF)

白鹿亭綺譚 (ハヤカワ文庫 SF 404)

白鹿亭綺譚 (ハヤカワ文庫 SF 404)

作家や科学者,編集者など好奇心旺盛な科学好きの集まるパブ <白鹿亭>.イギリスのどこかにあるこの酒場で毎週水曜日の夜に語られる愉快で素敵な「科学的ほら話」の数々.
1953 〜 1957 年にかけて書かれた連作短編集.常連のハリー・パーヴィスの口から語られる軽快なほら話はくすっとするような他愛ない戯言あり,荒唐無稽でくだらねー,まさに大ぼらあり,ぞくっとくるようなアイデアありとバラエティ豊か.ウラニウムを満載したトラックが事故を起こした! かと思いきやまさかの脱力オチ「臨界量」.触手ウネウネの巨大人喰い蘭登場,「尻ごみする蘭」.南の環礁に住まい,地球上に不在の「人類のライヴァル」を育てるマッドサイエンティストの物語「隣りの人は何する人ぞ」.上記 3 パターンの典型になるこの三編が特に良かった.
騒がしい酒場で語られる話なだけあって全体的に陽気,古びた感じのしないアイデアも分かりやすく,気軽に読めて短編によっては余韻も残る.酒場に集まる人々もユーモラスに人間くさく描かれていて雰囲気がすごくいい.ハリウッドが好事家に軽んじられるのもトンデモさんがウザいのも 50 年前から変わらないのな.時代を超えた親近感を覚えた.