打海文三 『裸者と裸者 上 孤児部隊の世界永久戦争』 (角川文庫)

裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争 (角川文庫)

裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争 (角川文庫)

応化二年二月,首都を制圧した反乱軍は救国臨時政府樹立を宣言.それにより国軍を政府軍と反乱軍に二分する日本内乱が勃発,泥沼の様相を見せていた.妹と弟を守り,行方の知れなくなった母親を探しながら政府軍の一員として戦う佐々木海人の 7 歳から 19 歳に至る成長とともに終わりの見えない内乱を描く.
混沌とした国内の情勢にスラム化した都市と荒廃した人心.北関東で生まれ育った私には馴染み深い地名が多く出てくるだけに身につまされる……ということは特にない.年齢にそぐわない言動の佐々木兄弟といい,下巻の主人公になる月田姉妹といい,語り手になる人物はどこかしら常人と遊離した位置にあるのが興味深い.おかげで,戦時下の荒廃を存分に描きながら,どこかぼんやりした膜が目の前に一枚張られているよう.読んでて不安な気持ちになる.はっきりした反戦の姿勢,あるいは賛美が見えるようなら落ち着いて読めると思うのだけど,それは許してもらえそうにない.作者の目的はリアリティやシミュレートを描くことにはなかったんだろうなあ.
面白かったです.下巻の感想は近いうちに.