ロバート・チャールズ・ウィルスン/茂木健訳 『時間封鎖』 (創元SF文庫)

時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈下〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈下〉 (創元SF文庫)

「違うね。時間は便利に使える道具にすぎない。本当に頼りになるのは、生命そのものだ。抽象的な意味での生命だよ。自らを複製し、進化し、複雑化していきながら、小さな隙間や岩の裂け目に入りこみ、予想外のやり方で生き延びていく生命。そんな生命の強かさと粘り強さに、ぼくは賭けているんだ。それで地球は救われるのだろうか? わからない。しかし、救われる可能性が生まれてくることは確かだ」ジェイスンがにっこり笑った。「もし君が、議会の予算委員会で委員長席に座っているんだったら、もっと自信満々の答弁をするんだけどね」

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何の前触れもなく,漆黒の膜のような物にすっぽり包まれた地球.地表から眺める空に月や星は消え,太陽は贋物になった.異変はそれにとどまらず,地球上の時間の流れだけが一億分の一の速度になっていたのだった.この現象 ── 「スピン」と呼ばれることになる ── を十代のはじめに迎えることになった三人と,地球が送ったその後の「数十年」を描く.
地球を時間的に切り取るという反則に近い技で連続的に観測される,気の遠くなるスケールの出来事.時間の速度差を利用して地球を救おうとした結果うまれる火星人類.めちゃくちゃわくわくさせられた.上巻のクライマックスにあたる「キリオロイ・デルタで撮影された四枚の写真」で情緒たっぷりに描かれる両者の違いと共通点は胸に来るものがあった.この章もある意味反則だと思うよー,と鼻をすんすんすすりながら言いたい.こんなん読まされたら異形の隣人にだって感情移入するしかないじゃない.
話の多くは未曾有の事態に瀕し滅亡を前にした地球人類のマクロな行動や,主人公三人のお互いや家族への思いを描いたドラマになっている.信仰にすがる者,機を利用して権力を手に入れる者,複雑に絡み合った群像劇でもあり,三人の成長と葛藤を描いた青春小説でもあり.SF を読まないひとにすすめられる SF ではなかろうかと言われていたので読んでみたわけですが,なるほどすっげー面白かったです.