津村記久子 『カソウスキの行方』 (講談社)

カソウスキの行方

カソウスキの行方

郊外の倉庫管理部門に左遷された 28 歳独身女のイリエは鬱屈した日常から逃れるため,同僚の森川を好きになったと仮想してみることにした.略して仮想好き.第 138 回芥川賞候補作を含む全三編の作品集.はじめて読んだ津村記久子.知人がついったー上で情熱的に作品への愛を語っていたのをみて買わずにいられなかったのです.
表題作の「カソウスキの行方」がいちばん良かったかな.「好きになってみる」といえど仮想はあくまで仮想.大きく心揺れることなく,ユーモア含みの仮想好きはいかにもおかしい.相手を知れば知るほど好きになるではなく,相手を好きになればなるほど(ただし仮想)知ることになるという大人の距離感.あと舞台となる郊外の描写も違う意味で胸に迫るものがあった.縁薄い土地でろくな選択肢も与えられず,やることも考えることもない休日ってのはけっこうきっついものがあるんですぜ.
華やかでもなんでもない大人の恋愛「Everyday I Write A Book」,不義理と不義理の不器用な応酬を描いた「花婿のハムラビ法典も良かった.作者は 78 年生まれ,私とほぼ同世代になるんだよなあ.同時代性っつうのか,こういう話を読んで「共感」を得る年齢になっちまったんだよなあ.なんてことをしみじみとね.もう一冊買ってあるんで冬休みにでも読むことにしますわ.