中村弦 『天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語』 (新潮社)

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語

第 20 回日本ファンタジーノベル大賞・大賞受賞作.天使に魅せられた天才的な建築家,笠井泉二.彼のつくる建物は住むひとの心を狂わせるという.時代は明治から昭和初期,笠井とその手がけた建築物をめぐるいくつかの断章.
うーん,物足りない.メインテーマのはずの建築物は肝心の描き込みがさほどでなく,どのあたりが「心を狂わせる」のかがいまひとつ分からない.人物の造型もどちらかというとステレオタイプで魅力を感じない.超常的な現象はほとんどが「天使」の仕業にされちゃうのも何だかなあ.「ファンタジー」ってそういう意味じゃないだろうに.せっかく魅力的な舞台・時代・題材なのにもったいない.心を狂わせるほどの建築物とはどういうものか,もっと偏執狂的に微に入り細を穿つようにちみちみとやってほしかった,てのが私の感想.無い物ねだりじゃないよね?