花田智 『天狼新星 SIRIUS:Hypernova』 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

FTP からの侵入だとしたら、それ以外考えられないね。でも、これが本当にソリタリー・パケットなら……それって、偶発的データ組替え(クロッシング・オーバー)とは思えないよ。まるで……」侵入データのヘッダの由来を分析していた慎ちゃんが言った。
「まるで……パケット自体が意志を持っているみたい」慎ちゃんが飲み込んだ言葉を、紗英が口にした。

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西暦 2015 年.光ソリトン通信を利用した大容量通信を実用化した SOCOM 社だったが,〈ソリタリー・パケット〉と呼ばれる原因不明の巨大なノイズに悩まされていた.SOCOM 社では対策チームを組んで対応に当たることにする.
2015 年の情報通信会社,2058 年の特殊電脳部隊サイバー・フォース,電脳空間の隠者(ハーミット).ネットワーク,サイバーパンク量子力学などを絡めて,三つの舞台から描き出されるサイバー SF.公演脚本を小説として増補改訂した作品とのことで,文章は,まさに脚本+ト書きを小説に直したような感覚.場面をビジュアル的に思い浮かべるのが容易な反面,やたら説明的だったり,「……」と「──」を多用してリズムを取るような文章は正直あまり読みやすいとはいえない.畑違いの良い面と悪い面が隣り合わせになっていると言えるかな.三つの舞台がだんだんと重なっていく終盤と,量子テレポーテーション観測問題を組み合わせた仕掛けはかなり好きなのだけど,そこへ行くまでにだれてしまうのよなーもったいない.