本田壱成 『ネバー×エンド×ロール 〜巡る未来の記憶〜』 (メディアワークス文庫)

ネバー×エンド×ロール―巡る未来の記憶 (メディアワークス文庫)

ネバー×エンド×ロール―巡る未来の記憶 (メディアワークス文庫)

「よーし、自己紹介! 自己紹介をしちゃおう! 本当はこういうの、あんまり良くないかもなんだけど──これはもうしょうがないよね、うん。緊急避難ってやつだよ」
身体についた砂埃を軽くはらって、彼女は姿勢を正す。
そうして、訳がわからないでいる俺らに、少女は満面の笑みを向ける。ちょっと反則なくらいに魅力的な、それは笑顔だった。
澄み切った青空に、少女の快活な声が響く。
「──あたし、こよみ! 未来から来たの、よろしくね!」

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16 年前に襲った大地震により壊滅的な打撃を受けた札幌.再開発事業の一環として札幌の街は高い塀に完全に囲まれ,住人は自由な出入りが叶わなくなっていた.その札幌で生まれ育った 15 歳の少年・駆は,幼なじみたちと共に塀の外へ脱出する計画を密かに企てていた.そんな彼らの前に,未来からやってきたという少女・こよみが現れる.
劇場アニメで観たくなるクオリティのボーイ・ミーツ・ガールが描かれる西暦 2039 年,AI の存在意義を巡る議論が繰り広げられる 2053 年,そしてすべての終わりの始まりを告げる 3367 年.三つの時代を三章(+エピローグ)で描く「青春のロスタイムストーリー」.作者は 1988 年生まれで「東北地方の大学院に在学」しているらしい.タイムトラベル,AI,アンドロイド,人工都市,電脳仮想空間,宇宙論などをすべて詰め込んだ,良質なジュブナイル SF であり問題作(あとで述べる)でもあると思う.SF の様々な要素を詰め込んだ,という意味では『Delivery』(感想)にも似ているのだけど,個人的にはこちらのほうがはるかに面白く,気持ちよく読める.
問題は,そこまで読んできたものがいっぺんにひっくり返されるエピローグ.非常にショッキングな事実(とタイトルの意味)がここで明かされることになる.文字どおりに受け止めると絶望,もしくは物語そのものが茶番だったと受け取れると思うのだけど,ひょっとしたら何かしらの希望を見出すことができるのか.評価が割れそうというか,自分にはよく分からなかった.これは SF のひとに読んでもらって,意見を聞いてみたいな.っていうかマジで劇場アニメ化されないかな.