岡本タクヤ 『武装中学生2045 -夏- 2』 (ファミ通文庫)

武装中学生2045 -夏- 2 (ファミ通文庫)

武装中学生2045 -夏- 2 (ファミ通文庫)

「人間の命につく値段とロボット一体の値段が釣り合うようになったら、戦争やらかしても、人間は一人も死なんで済む時代が来るかもなァ。ロボット同士の代理戦争て、SF の古典みたいなことが現実になるやもしれん」
「土岐先生は、そんな世の中がいいものだと思われますか」
少し躊躇いを含んだ声で姫川は問うた。
土岐は姫川へ視線を向ける。
「私も勿論、人が死なないほうがいいと思います。当然です。ですが──戦場から命の重さが消えたとき、そこに素晴らしい世界があるようには、私には思えないんです」
薄暗い倉庫の中で、姫川は命なき機械を見上げた。
「ふむ。命の重さか──」
土岐のその言葉が、埃を含んだ空気の中に、静かに響いて溶けていった。

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西暦 2045 年.沖縄で少女トワを奪還したレイジたちは,京都にある西都防衛学院に到着する.「防衛」をめぐる思惑から,レイジたちはしばらく西都防衛学院に身を寄せることになる.生徒会長兼問題児に絡まれたりしながら夏の数日を過ごす面々に,追手の影が迫りつつあった.
「国防教育法」により設立された東都防衛学院の武装中学生たちの経験する戦後 100 年目の「戦争」の物語.ライトノベルレーベルで,学園ものの体裁は取っているけれど,現代の「戦争」をかなり上手に切り取っているのではないかと思う.エピソードの表現は細やかで,かつ非常に強い.人間が不要となった戦争と,そんな戦場に残った「最後の戦士」に関する問いかけが非常に印象に強い.海を越えた国からリモートで操縦する兵器を「必要な時に、必要なだけ、この世に悪夢を顕現させる」「正しく地獄の機械」と表現してみせる,という.ただし,何が正解か,どうするべきかはここでは提示されない.なんというか,戦争やらなんやらについて,考えるきっかけに成りうる物語だと思うんだよね.そういう意味では,これは正しいジュブナイルなのかもしれないな,とも思った次第.