ウィリアム・コッツウィンクル/内田昌之訳 『ドクター・ラット』 (河出書房新社)

ドクター・ラット (ストレンジ・フィクション)

ドクター・ラット (ストレンジ・フィクション)

「助けて、助けて!」
「聞いてくれ、若き友よ、きみのささやかな科学的貢献についてそんなに神経を高ぶらせる必要はない。死ぬまえに圧縮ビスケットでもどうかね。たらふく食べて思いだすのだ──死こそ解放なり!」
「あいつらはぼくになにをしているの、ドクター・ラット?」
「メモを調べてみよう……ああ、ここだ。きみは脳を空気チューブで吸いだされる今週十匹目のラットになる」
助けて、助けて!

ドクター・ラット (ストレンジ・フィクション) | ウィリアム・コッツウィンクル, 内田 昌之 |本 | 通販 | Amazon

ラットのマッドサイエンティスト,ドクター・ラットは,ある大学の施設で今日も動物実験に勤しむ.非人道的な実験の犠牲になる動物たちの間から,やがて,ヒトへの反乱の機運が立ち上がってゆく.
1976 年に発表され,翌年の世界幻想文学大賞を受賞した作品.ラット,クジラ,ゾウ,クマ,ナマケモノなど,主人公ドクター・ラットだけでなく,多くの当事者(=動物)視点から描かれる反乱はじわじわと盛り上がってゆく.全編を覆うのは凄まじいブラックユーモア.詳細に描かれる動物実験,固有名詞や罵倒の言葉に注釈やら,これでもかと悪趣味に走っている.厭世観しか残らない後半の展開とラストも,なんというか徹底してるなあ.虐待をブラックユーモアで描いているため,本気で気分を悪くするひともいるようなのだけど,あらすじや引用部分が気になったなら読んでみてもいい.かもしれない.