トム・ロブ・スミス/田口俊樹訳 『エージェント6』 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

(略)ふしだらさではなく、むしろ節操こそ彼の問題点だった。ジェシー・オースティンはそれが欠点となるほど節操を尽くす男だった──人生を犠牲にしてまでも共産主義という愛人に節操を尽くした男だった。

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫) | トム・ロブ スミス, Tom Rob Smith, 田口 俊樹 |本 | 通販 | Amazon

レオの妻ライーサは,ソ連の友好使節団の団長として,二人の娘とともにニューヨークに向かう.そこで起こった惨劇が,15 年以上にわたる因縁の始まりであった.
ソヴィエト秘密警察の元捜査官レオ・デミドフの物語,『チャイルド44』(感想),『グラーグ57』(感想)に続く三部作の完結.上巻はニューヨーク,下巻はアフガニスタンを主な舞台に,非常にテンポよく,なおかつ濃密な物語が繰り広げられる.誰も信用できない,死と隣り合わせのヒリヒリした状況がずっと続くのだけど,エンターテインメントとしての熱もまたすごい.ソヴィエトもアメリカも,秘密警察はろくなもんじゃないし,共産主義はクソだけど,資本主義が素晴らしいかといえばそんなこともないのよね,っていう部分も含め,あらゆる意味でバランスが取れている.世界的な黒人歌手にして共産主義支持者のジェシー・オースティン(モデルはポール・ロブスンらしい)が,アメリカで迫害され転落してゆく象徴的な姿が恐ろしく印象に残る.傑作でありました.