管野ユウキ 『昨日の蒼空、明日の銀翼』 (講談社BOX)

昨日の蒼空、明日の銀翼 (講談社BOX)

昨日の蒼空、明日の銀翼 (講談社BOX)

「なにかあれば二言目にはすぐ、敢闘精神だの大和魂だの必勝の信念だの……バカじゃないのか、そんな気持ちだけで勝てるなんて考え方、俺に理解できるかって」
孝樹はそっぽを向いて、半ば自分に言い聞かせるように呟いた。自分の時代の価値観を未だ大事に抱いている孝樹は、彼らの奉じる心理が異端に思えた。
ふと気がつく。俺の信じている価値とは、なんだろう?
平和、平等、自由、民主主義。そんな分かりやすい単語が脳裏に浮かび上がる。しかしその単語からなにか確かなものを掴み取ろうとすると、それは孝樹の手をすり抜けて消えていった。

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現代の高校生,相沢孝樹はある日突然,昭和 19 年の日本にタイムトリップしてしまう.矢田部航空隊に配属され,訓練の日々を送ること約一年.戦況が悪化していく中,特攻隊の志願者が募られることになる.
一年間の航空隊での生活ののち,帰ってきた現代日本で見たもの.第 11 回講談社BOX新人賞Powers 受賞作.現代の高校生をタイムトリップさせることで,現代と戦時中の日本を対比させ,「特攻とはなんだったのか」を描いてゆく.敗戦を見越して,よりよい条件を引き出すカードとしての特攻,抑止力としての特攻という思想.彼らはなぜ特攻隊に志願したのか,誰のために死ぬのか.戦後教育と現代の高校生.などなど,戦争,その中でも特に太平洋戦争における「特攻」に強く焦点を当てた物語は,寝た子に石を投げるかのような非常に意欲的なもの.作者の思想を強く反映させるストーリーは,同じレーベルでデビューした至道流星によく似ている.そのため,物語とは別に,その「思想」が合わない読者は素直に楽しめないのではないかな.個人的には合わなかった.特に,「現代人」を描くにあたって,悪い方の例を大きく取り上げているのがちと気に入らなかった(物語的にはそれでいいと思うので,完全に好みの問題).