伊藤計劃×円城塔 『屍者の帝国』 (河出書房新社)

屍者の帝国

屍者の帝国

まず、わたしの仕事から説明せねばなるまい。
必要なのは、何をおいてもまず、屍体だ。

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「あんたは、生命とはなんだと思う」
笑い飛ばされるかと思ったが、振り返ったバーナビーは不思議そうな顔で淡々と告げた。
「性交渉によって感染する致死性の病」

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19世紀末.ヴィクター・フランケンシュタインによって最初のクリーチャが生み出されてから約百年が経ち,屍者は民生用から軍事用まで,世界中で幅広く活用されるようになっていた.ロンドンの医学生ジョン・H・ワトソンは,ある密命を受け,大英帝国の諜報員としてアフガニスタンの奥地へと向かうことになる.
刊行の経緯は 伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』刊行までの経緯 - Togetterまとめ を一読すると良い.フランケンシュタインヴァン・ヘルシングとセワードの師弟,「M」は007だよな.壮大なバカSFの開幕を予感させる伊藤計劃の遺した20ページ足らずの「プロローグ」を,円城塔が書き継いでいる.大英帝国からボンベイアフガニスタン,日本,アメリカを経由する世界一周の旅は,期待を大きく上回る傑作となっていた.ネクロウェアによって動かされる「屍者」の活用方法.当時の風俗・社会にフィクション・ノンフィクション,はてはアニメまで,あらゆるネタを詰め込んだ改変世界の冒険は,痛快なエンターテインメントでありバディものであり.生命や意識,魂の考察は『虐殺器官』や『ハーモニー』への返歌でもあり.このすべてが有機的につながっている.読んでる最中はひたすら至福,読み終わった瞬間は,この先数年は出ない傑作だと思って朦朧となった.円城塔を敬遠しているひともぜひ読んだほうがいい.読み終わったら,屍者の帝国 伊藤計劃×円城塔 | 河出書房新社 もあわせて.