紫藤ケイ 『ロゥド・オブ・デュラハン』 (このライトノベルがすごい!文庫)

ロゥド・オブ・デュラハン (このライトノベルがすごい! 文庫)

ロゥド・オブ・デュラハン (このライトノベルがすごい! 文庫)

相手が、行方知れずになった近衛兵だと悟ったときには──振り下ろされた剣が、片手で支えられていることを悟ったときには──ライナルトが隠し持っていた左手の弩に矢が装填されており、それが左目に突きつけられるさまが見えたときには──完全に、詰んでいた。
終焉の予感に、背筋が震えた。成さねばならないことがあるのに、それを成しうるすべをようやく見つけたというのに──凄まじい無念さがこみ上げ、制止の言葉となっていた。
「待──」
どしゅ、という軽くも重くもない音がして、太矢が眼球と脳を貫通した。

ロゥド・オブ・デュラハン (このライトノベルがすごい! 文庫) | 紫藤 ケイ, 雨沼 |本 | 通販 | Amazon

唐突に病死し,死体がそのまま行方知れずになった姫姉妹を探す傭兵のアルフォンスは,屍体を弄ぶ死術師エルンストのもとにたどり着く.窮地に陥ったアルフォンスの目の前に現れたのは,正しき死をもたらす精霊・デュラハンの少女だった.
第3回このライトノベルがすごい!大賞・大賞受賞のダーク・ファンタジー.これは良かった.ストーリーの組み立てといい,テキストの緩急のつけかたといい,かなり高いレベルでまとまっている.なにより,「緩」はともかく「急」の場面でこんな効果的に文学線(──)を使うひとをはじめて見たかもしれない.まず容赦のない残酷な描写を見せつけてから,「あいつらが復讐を望むはずがない」「だが,それでも俺は戦う,俺には戦うことしかできない」という行動原理を示してみせる序盤にもぐっと惹きつけられた.ライトノベルのファンタジーとして一歩先を行くレベルにあると思う.大賞は伊達ではないということかな.今回の受賞作から三ヶ月連続刊行とのこと(予告を見る限りではすべてファンタジーらしい)で,がぜん楽しみになってきましたよ.