牧野修 『晩年計画がはじまりました』 (角川ホラー文庫)

「僕のような立場の人間の言うことじゃなかったね。ごめんごめん。だけどね、あんな二宮の姿を見てたらいろいろと思うことがあってさあ。なんでこの歳まで頑張ってきた人間がそんなところまで追い込まれなきゃならないんだよ。病気だ、って思った方が気は楽だけどね。病気じゃなくたって死にたくなる気持ちは、ほんとよくわかるんだよな。この歳まで生きてきたら、そろそろ死を実感するんだ。そうすると希望なんてものがお伽話よりもバカバカしく思えてくる。僕みたいなもんでも、絶望的な気持ちになることはあってね、せめて死ぬ前に、いや、せめて死ぬことで一矢報いることが出来ればとよく思うよ。あいつは今もそう思っているかもね」

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ケースワーカーとして働く茜のもとに,ある日一通のメールが届く.宛先の表示されないメールの内容はひとこと,「晩年計画が始まりました」.その後,茜はクライアントの男性が首吊り自殺した現場に遭遇する.その現場の窓には大きく「晩年計画はじめてください」と書かれていた.
貧困,生活保護,老後,介護,就職難といった現代の絶望を描きながら,激しい恨みを抱えたまま晩年を迎えた人間を救済するという「晩年計画」を追う.あとがきでは“小説や映画の中にあるのはコントロールできる不幸だ。だからこそ我々はそこに救いを見いだす。”と言っているけれど,あまりにごりごりと不幸をえぐり出していて,そこかしこで心が削られる.就活中のひとや生活に不安のある現代人は心を落ち着けて読んだほうがいいと思う.執筆中に3月11日を迎え,“徹底して書き換えた”というラストは,リアリティのレベルに前半とややズレを感じた.たしかに「和めるホラー」かもしれないけど,ちょっと尻すぼみかなあ.