霧崎雀 『血潮の色に咲く花は』 (ガガガ文庫)

血潮の色に咲く花は (ガガガ文庫)

血潮の色に咲く花は (ガガガ文庫)

「ところでね、リディちゃん。わたしの花……そろそろ、咲くんだ」
照れてはにかみながら、懐妊でも伝えるようにナターシャが言った。

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人間に寄生して成長する妖花.その宿主となった者は,頭に花を咲かせ,それまでの記憶を失い,花の繁殖のために生きるようになる.妖花を狩る組織である花狩り(ベスキュラム)で仕事をするルッカは,北の町で人探しをしている宿主の少女,リディと出会う.
宿主の頭の「仮花」が開き「真花」になるとき,妖花の種は撒き散らされ,宿主の人間は死ぬという.第8回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作.ヒトに寄生して思考を誘導する,ロイコクロリディウムのような妖花の「宿主」を,「救い」であると信じて殺してゆく男が主人公.花に思考をコントロールされているとはいえ,宿主(主に泣き叫ぶ少女)の信じているものを踏みにじり,殺すことに躊躇しない.その先にある気づき.誰にも感情移入できないタイプの話ではある.妖花のある社会,北と南の文化と風習の違い,宿主の行動原理とか,掘り起こす余地はまだまだありそうだけど,一歩間違えればホラーにもSFにもなれる話を,自分の言葉で過不足なく描ききっているのは良かったな.良いものでした.今後も期待していきたい.