岩城裕明 『牛家』 (角川ホラー文庫)

牛家 (角川ホラー文庫)

牛家 (角川ホラー文庫)

どれだけ風貌が怪しかろうと、立って歩いている時点で「あれ、この人死んでない?」と思う人はいない。僕にとって問題はクラスメイトに会うかどうかの一点だけだった。死人だと気がつかれなかったとしても「あれ、お前の父ちゃん気持ち悪くない?」と言われたら、その通りなので返す言葉がない。

瓶人

特殊清掃員たちがあるゴミ屋敷で見てしまったものを描く,第21回日本ホラー小説大賞佳作受賞作「牛家」.時空の歪んだゴミ屋敷で見せつけられる,残酷でグロテスクな数々の出来事の理不尽さ.特殊清掃業にしては装備が甘い気もするが重箱の隅よね.併録は,事故で死んだ僕のお父さんは特別な儀式を経てゾンビ=瓶人になりました,という瓶人.ユーモラスな導入から,ちょっといい話に落ち着くのかなと思いきやとんでもない.読み終わると行き場のない余韻が腹にもにゃあっと渦を巻く…….いやあ楽しい.この気持ち悪さ後味の悪さこそホラー短編よ.
いずれの短篇も,ユーモラスな語りに紛れ込ませ,ちらりと見せつける語り手の心の闇にぞわっとさせられる.見えないものが見えるストーリーといい,軽妙な語り口といい,『ようこそ、ロバの目の世界へ』(感想)が好きな自分にはとても嬉しい短篇集でした.さっくり読めることだし気になったら読んでみるといいさ.