柴田勝家 『ニルヤの島』 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

私が「乳幼児のミラーニューロンの形成と発達」という論文で修士号を取った頃、そしてイングマン教授が癌で死んだ頃、バチカンが死後の世界は存在しないと明言した。
天国はなくなった。
地獄もなくなった。

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「ノヴァク教授は、地獄(ジゴク)をここに飼っていますか?」
青年は、白い指を自身のこめかみに突き立てる。

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生体受像(ビオヴィス)と呼ばれる技術の発達によって人生のすべてを記録し叙述することが可能となり,「死後の世界」の存在が否定されるようになった世界.ミクロネシア経済連合体(ECM)では,統集派(モデカイト)と呼ばれる集団によって「死後の世界」が保持されていた.ECMに集まった人々は,とある大きな実験に巻き込まれてゆく.
柴田勝家すぎる作者が話題となっている第2回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作.「死後の世界」が公式に否定された世界の南洋を舞台に,四つの断章が螺旋のように組み合わされて描かれる文化人類学SF.死後の世界を喪失した人々,世界がどのような方向を向くのか.巨大な橋によって繋がれたミクロネシア.遺跡でただただコンピュータとゲームを続ける男.遺伝子と模倣子(ミーム).かなり思弁性が強く,適当に読んでいると時系列すらよくわからないと思う.パーツとしての面白さは充分にわかるつもり,なんだけど,総体として浮かび上がるものがあるのかと言われると,正直よくわからない.テーマに興味のあるひとなら読んでみて損はないと思うけど,個人的には頭の良いひとの感想を聞いてみたいところである.