森橋ビンゴ 『この恋と、その未来。 ―一年目 夏秋―』 (ファミ通文庫)

「女は、顔だよ」
昔、親父がそんなことを言っていたのを思い出した。
「性格なんて、誰だろうと五十歩百歩だからな。女はみんな面倒くせェし、女はみんな馬鹿なんだよ。だから顔で選ぶしかないんだよ。あと、尻」
最低なことを言ってやがると、その時は思った。小学生の息子に、そんなこと言って、何がしたかったのだ、あの親父は。今でもやはり、俺は親父のその言葉は最低だな、と思っている。けれど、心のどこかで、顔か、とも思った。

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性同一性障害GID)によって男になることを望む未来と,未来に恋する四郎の物語の第二巻.夏休みと文化祭で進む,いくつかの出会いと恋.一巻(感想)と同様,というかそれにもまして派手なことは起こらない.四郎と未来の考えはぜんぜん噛み合わず,このままだと恋が恋として形を結ぶ前に自然消滅するのではないかとも思える.しかしこのストーリー展開は好きだな.自然消滅してこのまま終わってしまったとしても,それはそれで美しい,という気がしてしまう.三好さんの広島弁が可愛いし.いや面白いとは思うのだけど,続きがあまり気にならないというのは続きものとしてどうなのか.「恋は心でするのか、体でするのか」という,この作品のテーマに,ひとつの回答というか方向付けをしているのは意外だったけど,このあたりが今後の物語の鍵を握ることになるのかな.