弘前龍 『17番目のヒッグス 異次元世界の若き王』 (電撃文庫)

「運命か。随分とロマンチックな話になったな」
「夢物語を紡いでいる訳ではありません。人類が私たちの観測者となった時点で、その概念をニュートリノと名付けることが、最初から運命付けられていたのです」

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「同一次元に広がる有限の空間を宇宙と呼ぶならば、それは単一の存在ではありません。確認できただけでも、11次元の宇宙までは存在するようです」
「誰がどうやって確認したんだよ、そんなもん」
「私が実際に行ってきたので、間違いありません」
軽い皮肉を言ったつもりだったが、ニュートリノはさらりと凄い答えを返してきた。

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2012年7月4日.《カミオカンデS4》での実験成功により,人類は魔法を発見した.それから2年後.実験の当日に記憶喪失の状態で保護された湯川太郎,湯川花子のきょうだいは,中学生として宇宙線研究所の研究員,湯川振一とともに暮らしていた.そこへ現れたのは,ニュートリノと名乗る少女.
SFかと思ったら微粒子擬人化ファンタジーだった.ヒッグスとグルーオンがきょうだいで,ビッグバンの際に分かたれた別の宇宙ではボソン国とレプトン国とクォーク共和国が覇を競っているという,勉強のできる中学生が考えたような頭のイタい基本設定.ではあるんだけど,それっぽい理屈を付けすぎず,力押しでグイグイと押し進めるのが成功しているのかな.これほど頭が悪いのに,これほど根拠のわからない自信がみなぎっている小説ははじめて読んだかもしれない.リーダビリティは悪くないのでわりと楽しく読んでしまった.しょうもないと言えばその通りで,知り合いには絶対にすすめられないんだけど.キャッチコピーを付けるなら,高度に発達した科学は魔法と区別がつかない,というか,高度に発達した科学は完全に魔法である,みたいな?