深見真 『開門銃(ゲートガン)の外交官と、竜の国の大使館』 (ファミ通文庫)

「はい。お金ではなく、他にはないと思ってこの仕事を目指しました。ぼくは頑丈な以外なにもない人間です。ぼくより優れた人間の盾になるのは、とても光栄なことだと……。ぼくは撃たれるために生まれてきたようなものです」
「…………」
ぼくの言葉で、気まずい空気になった。
みなが黙りこんでしまう。
食器を使うカチャカチャという音がやけに大きく聞こえる。
――あらら、やっちゃったかな?
なにか変なこと言ったかな? わからない、おかしいな。

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「星の輝き」に選ばれなかった子供である海塔ユーヤ.ヤポニア共和国で生まれ警護官になったユーヤは,同窓生の月露ミーシャとともに特派大使専属の警護官に選抜される.ある外交的難題を抱え,彼らは竜神族の住む国であるドラコニドへと赴く.
虐げられる奴隷たちを助けようとした結果,拘束されることになった人鬼(オーガ)ために隣国で交渉を行う外交官の活躍を描く.ファンタジー界の杉原千畝のような話であるけれど,異世界から「召喚」を行うための銃だったり,変身だったり,らしい味付けが楽しい.もともと外交を書きたかった(けど,現代社会でやると生々しすぎるし固くなりすぎるからファンタジーになった)とのことなので,この道具立てでもそれほど無茶な方向には行かない.しかし,どこか突き放したような,あらゆるものを他人事で見ているような冷えた一人称の語りがものすごくかっこいい.ノワール調なのに一人称が「ぼく」なのも独特の雰囲気を生んでいる.目的をもって振るわれる冷えた暴力や,主人公の思考に,不思議な説得力を与えていると思う.