赤城大空 『二度めの夏、二度と会えない君』 (ガガガ文庫)

バカか。
こんな奇跡、二度とない。
時間が巻き戻るなんて、やり直せるなんて、普通はあり得ない。
そんな望外の幸運を、身勝手な感情で台無しにするつもりか。
そうやって自分を抑えつけても、身勝手な感情は次から次へと湧いてきた。
人を好きになるという気持ちは、どこまでもおぞましい。
こんなに汚いものだから、人は愛を歌うとき、過剰なほどの美しく飾るのではないかと、半ば本気でそう思った。

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転校生の森山燐は不治の病を患っていた.バンドを組み,合宿をし,文化祭で演奏した3か月の日々を経て,燐は死んだ.たったひとつの後悔を抱えたまま残された俺は,突然起こったタイムリープによって,3か月前の燐にもう一度出会う.
「二度と会えない君」のため,「二度めの夏」という奇跡の日々を送る.たぶんさんざん言われてるだろうけど『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』の作者が書いたとは思えない,ピュアなラブストーリー.死んでしまう彼女に最後まで笑顔でいてもらうため,己を殺して二度めの夏を送るうち,少しずつ思惑がずれていく.結局のところ,時間が巻き戻ったところで何かが解決するわけでなし,タイムリープで新たな視点が得られるかというと,視野狭窄が多少広がる程度.奇跡は決して都合のいいものではなく,読者からするとかえってもやもやが増える,煮え切らない話かもしれない.だがそれがいいのだ.一般的な時間SFを期待するとちょっと違うかな.というか,含みを持たせたラストで,これはひょっとして作中で言うようなタイムリープではないのではないかとも思った.まあそこまで狙ってやっているのかはよくわからないけどね.