越智文比古 『Y〈ヨグ〉の紋章師』 (MF文庫J)

Y<ヨグ>の紋章師 (MF文庫J)

Y<ヨグ>の紋章師 (MF文庫J)

いきなり椅子と一緒に現れた青年にレオンは眉根を寄せる。
そしていぶかりながらも青年を観察する。
ブラックシルバーの髪に、浅黒い肌の色、人好きのする笑みを浮かべている。しなしなぜだろう、顔がどうしてもわからない。笑っているのは理解できるのに、顔の造形というか、目鼻立ちがどうしても認識できないのだ。
「あんた誰だ? それにここは?」
「ここは世界の理の外側、わたくしは千の顔を持つゆえに顔なく、千の名を持つゆえに名なき者――Yヨグの強壮なる従者です」

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レオン・カーターは紋章を持つものが通うローウェン紋章学園に通う生徒.しかし,一向に開花する兆しを見せない彼を周囲は〈飾りの紋章デコレーション〉と呼んでバカにしていた.あるとき,罰として聖堂の掃除をしていたレオンと友人のカロン,シャルロットは,その地下に眠る少女,チェルシーと出会う.
Yヨグの娘と〈窮極の門〉をめぐる「アンチ・ループ・ファンタジー」という第10回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞受賞作.タイトルから察せられるように,クトゥルフ神話のエッセンスを注ぎ込まれた異世界学園ファンタジー,なおかつループものでもある.といってもクトゥルフ神話らしさはさほど強いわけではなく,借り物の固有名詞や設定も,一般的なクトゥルフものと一対一で対応するものではない,と思う(自分が詳しくないので断言できないけど).様々な設定を取り入れた意欲作だと思うんだけど,ストーリーに粗も穴もわかりやすく目立つのは気になるところ.10年のループに耐えた人物がやけにうぶだったり,話がまとめに入った途端に説明調でぎこちなくなるのはともかく,ループの内側にいるはずのある登場人物が,ループの外側の出来事を知っていたのは読み間違いだと思いたいけども.まあしかし,アイデアの取捨選択や元ネタにべったりではないところは個人的にとても好きなので,今後筆力がついてくればいいなあ.期待しております.