大泉貴 『我がヒーローのための絶対悪(アルケマルス)』 (ガガガ文庫)

黒髑髏は呼びかける。
「こんばんは、ガイムーン。ずっと待っていたよ、我が親愛なる正義のヒーロー」
白兎は呼びかける。
「こんばんは、ヘルヴェノム卿。ずっと捜していた、わたしの倒すべき悪の根源」
(中略)
「さあ、共に行こうか、ガイムーン。正義(きみ)(わたし)の、あるべき結末に向けて」

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月杜市に根を張っていた怪人組織“禍嶽社リヴァイアサン”が崩壊してから3年.街の平和を守る正義のヒーロー,ガイムーンの前に,姿を消していた禍嶽社リヴァイアサンの総帥,ヘルヴェノム卿が現れる.それは,正義の味方を運命付けられた少女のために,絶対悪となることを決めた少年の物語であった.
ノーヴィラン,ノーヒーロー.正義の少女と悪の少年の「良き闘争」を描くピカレスクロマン.チームを組んでヒーローに対峙する悪役たち,という導入からアメコミのヒーローものの趣があるのだけど,いかにもライトノベルらしい学園ものとうまく組み合わさり,結果として終始ギリギリの綱渡りを描くことに成功している.依存しあうヒーローとヴィランの関係.ヒーローがヒーローたる条件.正義の偶像としてのヒーローと,悪の偶像としての「絶対悪(アルケマルス)」の概念…….ストーリー運びはちょっとぎこちないところがある気がするのだけど,物語の緊張感やバトルの激しさは本物だと思う.なぜ月杜市なのかとか,人間(ネイティブ)怪人(オルタ)の関係とか,尺の関係か書ききれていないところも多いのだけど,ダークヒーローが好きなら読んでみて損はないのではないかと思いました.