中村智紀 『埼玉県神統系譜』 (ガガガ文庫)

埼玉県神統系譜 (ガガガ文庫)

埼玉県神統系譜 (ガガガ文庫)

先輩は話しながら、麺つゆに蕎麦湯を注ぐ。
「でも神さまも、案外その大騒ぎを人間と一緒に楽しんでいるのかもしれない。神というのは、悠久のときを生きている。悠久のときを生きるということは、永遠に変わらないということだ。完全、不変、安定。それが、神の性質だ。一方で、神が造った世界は、不完全で、目まぐるしく変化して、その様は不安定だ。もし神がいるのなら――」
先輩は、蕎麦湯を一口すすった。
「世界のそうした不安定さをこそ、愛するのかもしれない」

Amazon CAPTCHA

実家の神職を継ぐことをぼんやりと希望して,余裕ぶっこいていた白狼神社の長男,立花孝介.彼を衝撃の真実が襲う.白狼神社は,経営難で倒産しかけていたのだ.失意の孝介は,狼の面を被った白髪の女と出会う.
第9回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞受賞作.暑苦しい埼玉県の地方都市におわす神さまと人間たちの関わりのお話.事件らしい事件も起こらず,夏休み前の出来事をもってまわったテキストで淡々と描いてゆく.いくら日常系とはいえ,ここまで徹頭徹尾,何も起こらない小説はラノベに限らずそうそうないのではないかな.あまりに何も起こらなすぎて,テキストでなんとか尺を引き延ばしている感もある.読んでる最中はちょっとかったるいのでひとを選ぶかもしれないけど,夏祭りの雰囲気とかすごく良いし,読みおわるとほんのりとした余韻が残るラストも好き.良かったと思います.