森橋ビンゴ 『この恋と、その未来。 ―一年目 冬―』 (ファミ通文庫)

一体、いつまでこんな風に誤魔化し続けなくてはいけないのだろう。
ぼんやりと、そんなことを思った。
本当に、未来への気持ちを断ち切れる日なんて、来るのだろうか。ひょっとして、俺は一生、こうやって未来のことを好きなまま、それを誤魔化して生きていくのではないのだろうか。そう考えると、何だか怖い。けれど、それはそれで悪くないようにも、少しだけ、思える。

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冬休みに入り,四郎は未来とともに東京に帰省することになった.それぞれの理由で実家に帰るのが憂鬱なふたりだったが,未来は家庭の不和から家を飛び出し,四郎の家で年末年始を過ごすことになる.
出会って一年目の冬.GIDの未来に対する少年の片思いを描いたシリーズ三巻.今回に限って言えば,家を離れたこと,「恋」をしたことによる成長を描いた側面の印象が強かった.子供の頃は大嫌いだった父親のことが少し理解できるようになったり,自分のことを好き勝手にいじめているだけだと思っていた姉たちの違う一面が見えるようになったり.主人公目線の衒わない描写が読んでて嬉しくもあり,胸を締めつける切なさもあり.しかし,二巻(感想)でも思ったことだけど,「女は顔」,「恋は幻」という,大人=父親の身も蓋もない助言がどんどん重みを増している気がする.大人目線からの無責任な言葉が,悩み苦しむ少年の背中をちょっとだけ押す(良い方向にも悪い方向にも)ことってあるよね,という.すごく繊細で良い恋愛小説だと思うのですよ.続きをお待ちしております.