江波光則 『我もまたアルカディアにあり』 (ハヤカワ文庫JA)

我もまたアルカディアにあり (ハヤカワ文庫JA)

我もまたアルカディアにあり (ハヤカワ文庫JA)

俺はそこに至って初めて確信を得る。
人間は不満や不平等、差別をいけない事だと糾弾するが、その糾弾こそが生きていくためのギアなのだ。何ら摩擦のない世界に戸惑うのだ。
何かと戦っているというギスギスとささくれた精神状態こそが逆に釣り合いをもたらしそして結果として安定する。
俺に言わせれば無駄に無駄をぶつけて相殺するという無益な生き方だ。

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生活保護によって養われる400人の無職が集められたアルカディアマンション.世界の終末に備えて建造されたという窓のない建物の中では,ただ娯楽を消費するだけのひとびとが世代を重ねていった.
汚染が進み,終末に直面した理想郷世界でも,ニートたちはゆるゆると堕落した生活を送っていた.ある者は流されるままに,ある者は自分の趣味を追求し.いかにも現代的な,不思議な感覚の終末もの.終末もので日常もの,ということで『人類は衰退しました』に近い気もするけど,またちょっと違っている.語り手(複数いる)の,想像力の入り込む余地の多い,どこかずれた視線が効いているのかな.派手な動きはないんだけど,テキストに妙に没頭してしまう.けっきょくのところ,終末が来ても人間はしつこく生き続けるし,真の理想郷はどこにもないのだという,よくある話なんだよな.楽しゅうございました.