ジョルジュ・ペレック/桑田光平訳 『給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法』 (水声社)

給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法

給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法

この問題はデリケートな問題なので後でさらに念入りに検討してみましょう事態を簡潔にするためにというのも何事も簡潔にすべきですから

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1968年に書かれた実験的小説.ぺろっとめくると,「給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法」を説明した一枚のフローチャート.そのうしろには,フローチャートを書き下した,句読点も改行段落も一切存在しないテキストが続く.煽り文を読んで,筒井康隆の「デマ」みたいな小説かと思ったら,まったく逆のアプローチなのね.「デマ」は小説をフローチャート化で,こちらはフローチャートの小説化.フローチャートのたどるすべてのルートを,ひとつなぎのミニマルなテキストで一気に描ききる,という.まあ,フローチャートと呼ぶにはあまりにごちゃっとしているんだが.
フローチャートの開始から終了までを何度も何度も繰り返したどることになるため,テキストはどんどんミニマルになっていくし,すべてがひとつながりであるという形式をとっているためか,改行段落も句読点も一切存在しないし,どんなルートをたどろうとけっきょくいつまで経っても給料はあがらないし.周回し繰り返される物語だと思うと,ノベルゲームのはしりとして読めるかもしれない.果たされぬ給料アップを目指して世界線を行ったり来たりする「シュタインズ・ゲート」というか.楽しゅうございました.