石原宙 『世界で2番目におもしろいライトノベル。』 (ダッシュエックス文庫)

俺がライトノベル作家を目指したのは、エンドロールが怖かったからだ。
好きなアニメが終わる時。最終回のエンドロールだ。
スタッフクレジットが流れる中、すべての苦難を乗り越えた主人公たちが平和で楽しい日常へ戻っていく。
報われて良かったと胸が熱くなる一方、その感慨をかき消すほどに思うのだ。
――俺を置いてかないでくれ。
――ずっと追いかけてきたのにひどいだろ。

世界で2番目におもしろいライトノベル。 (ダッシュエックス文庫) | 石原 宙, H2SO4 |本 | 通販 | Amazon

誰にも注目されぬことを良しとして日々を送っていた平凡な高校生,灰川祭は,ある日“エンディング後の主人公”を名乗る四人と出会う.元魔法少女,元学園異能の覇者,元異世界の救世主,元伝説の勇者.主人公らしさを表す“英雄係数”(メサイアモジュール)を四人から押し付けられる形になった祭は,意に沿わぬ形で世界の主人公にされてしまう.
ライトノベルへの愛と憎しみに満ちた、泣けて笑える終幕英雄〈エンドロール〉ラブコメ”.副題は「本の売れない商業作家に存在意義はあるのか」かな.今はいなくなってしまった人間が遺した物語と言葉が,ひとを救ったり,逆に突き落としたりする物語.そういう意味で伊藤計劃以後っぽい何かを感じる.言葉は呪い,をフィクションとして正しく表現しているというか.ただ,それが魔法少女や異能力者といった“元主人公”たちのエピソードとがっちり噛み合っているかというと,正直それほどでも無い気がした.ライトノベルあるあるネタが繰り返される前半はくどくて,面白くなるまで時間がかかるかも.救いのあるクライマックスはほんと良かったと思うし,そこまで読む価値はあると思う.