三島浩司 『ウルトラマンデュアル』 (早川書房)

ウルトラマンデュアル (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)

ウルトラマンデュアル (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)

「つまりミスティにとって、ヴェンダリスタは悪ではないと」
「そうじゃないが、正義がこの世でもっとも尊いものではないということだ」
「もっとも尊いものってなんですか」
「それは人それぞれだ。しかし少なくとも地球人類七〇億の命と正義は釣りあわない。手放すに惜しまざるものだ」

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地球侵略に現れたギャラフィアンと,宇宙警備隊である光の国の戦士たちが地球近傍で激しい交戦を行った.ヴェンダリスタ星人の恐怖支配を受けていた日本政府は,練馬区に不時着した光の国のスペースシップを「光の国の飛び地」と認定し,ギャラフィアンと同等の侵略者として扱う政治的決定を行う.
光の国の救援を待つウルトラの聖女と不時着した宇宙船.国籍を捨て,人類から遠ざかりながら,密かに光の国に協力する人々.侵略者という立場を利用して地球人にいやがらせをしたり怪獣を送り込んだりするヴェンダリスタ星人.光の国とヴェンダリスタから中立を保つ決断をした政府…….様々な要素が詰め込まれた,現時点では最新となるオリジナルのウルトラマン小説.悪あってこその正義という在り方や,「悪」と「愛」の関係に星間の政治力学を絡めた,まさに現代らしいヒーローものだと思う.地味だけど怪獣の設定も良い.独特の読みにくさ(というか古くささ?)のある文章は相変わらずだけど,情報量があって読むところが多い.
相撲の用語を取り入れながら作っていく世界は『ダイナミックフィギュア』(感想)っぽい.というか,「相撲用語を取り入れたウルトラマン小説」だったものが,後半に進むに連れて相撲SFそのものに塗り替わっていく感覚がある.貴重な相撲SFなので相撲SFが好きなら読んでみるといい.