赤城大空 『下ネタという概念が存在しない退屈な世界11』 (ガガガ文庫)

「誰かを悪者にするのは嫌だった。だから僕たちは、すべてをうやむやにするこんなやり方を選んだんです。全員が間違っていて、卑猥に関する議論がまた一から始まる……そんなむちゃくちゃな状況を作り出す、この騒動を」

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「どこかで決定的に間違えてしまったとしても、案外、どうにかなるものみたいですから」
穏やかに、そしてなにかの確信を持って、アンナ先輩は笑った。

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狸吉が二代目《雪原の青》となり,綾女が北の大地へ渡ってから2年が経った.ついに出生率ゼロの期間が8ヶ月となった健全国家,日本への反旗を翻す時が来た.自分たちの「まちがった」未来をこの手に取り戻すのだ.
下ネタの禁止された健全なディストピア小説,ついに完結.良かった.時事ネタを節操無く取り入れたり(「一億総変態社会」とか下半身のお粗末さんとか),進行系で変化するディストピア.それを「テロ」という手段を取りながら,誰も悪者にせずに打破する.僕たちはこの衝動を抱えたままでいい.人に迷惑をかけない範囲でなら,この衝動をおもいっきり楽しんでいいんだ,という.都合の良い終え方といえばまったくその通りなんだけども,「悪役」のいないハッピーエンドの物語が好きなんだよ.どこに出しても恥ずかしくない下ネタテロリストになった狸吉に妙な安心感を感じたり,物語の歪みを一身に受けたといえるアンナ先輩への救いにこっちも救われた気になったり,キャラクターにも愛着が強く湧く.
シリーズを通してみると,中だるみもあったし方向性がよくわからなかった時期も長かった気がするけど,後半に行くにつれ作者も一皮剥けていった感がある.本当に良い作品でした.最終章タイトルの「一億総変態社会」にじーんとするとは思わなかったよ.完結を機に一気読みするのもいいと思うよ.