バリントン・J・ベイリー/冬川亘訳 『カエアンの聖衣』 (ハヤカワ文庫SF)

カエアンの聖衣 (ハヤカワ文庫 SF 512)

カエアンの聖衣 (ハヤカワ文庫 SF 512)

「カエアンの服って、ほんとにそんなにすごいのかい?」グラウンがわめいた。「だって、それじゃまるで魔法じゃねえか!」かれはケタケタ嬉しそうに笑った。「魔法のスーツだ!」
「科学だ」マストが怒りを抑えて訂正した。「カエアン人しか知らない特別な科学だ。催眠術みたいなもんだ」

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カエアン人にとって,衣裳とは一つの哲学であり人生観,唯一絶対の人の道である.服飾家(サートリアル)のペデルは,カエアン人の難破船から持ちだした積荷から宇宙に五着しかないフラショーナル・スーツを手に入れるが,その美しいスーツには恐るべき力が秘められていた.
“服は人なり”を体現するカエアン文明の成り立ちと秘密.『キルラキル』のネタ元のひとつにもなったというワイドスクリーン・バロック.蝿の惑星だの,宇宙を生身で飛ぶヤクーサ・ボンズだの,一生を金属スーツのなかで送るソヴィヤ人だの.ポンポンと飛び出すアイデアは,大風呂敷を広げるというより,風呂敷の上におもちゃを並べたかのようなガチャガチャ感がある.そして最終的にえいやで畳み掛ける力技感.
カエアン人のたどり着いた境地は今でも古びていないと思うし,伏線は綺麗に敷かれていてエンターテイメントとして楽しい.出版されたのが1983年とはいえ,テキストや固有名詞は思った以上に古めかしく感じた.まあ読んでいくうちに気にならなくはなった.今から読むなら,つい最近出た新訳のほうがいいかな.楽しゅうございました.