森川智喜 『トリモノート』 (新潮文庫nex)

トリモノート (新潮文庫nex)

トリモノート (新潮文庫nex)

自然科学のもたらしたものを信じられないのではない。
自然科学という考えかたそのものがまず信じられない。

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自白という証拠も、とらえようによっては物証の一種といえるのではなかろうか。
なぜならばあくまで唯物的な価値観を採用するならば、人というものがそもそも一種の物体であるからだ。コンピューターに接続されているキーボードを指で叩き、画面にアウトプットされた記号を犯罪の証拠と捉える。脳に接続されている身体を鞭で叩き、口からアウトプットされた言質を証拠と捉える。
一見、同じではないか?

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時と場所は,18世紀後期のお侍さんの国.岡っ引きの娘,お星は,山からの帰りに藪の中で光る円盤を発見する.白色に光る円盤の中には,見たこともないたくさんのアイテムが並んでいた.不思議なアイテムにお星と,幼なじみで学問好きの舟彦は興味津々.これらのアイテムを使って,「確乎たる」犯罪捜査をやろうじゃないか.
江戸時代によく似たお侍さんの国を舞台にした「科学的捕物帳」.ふたりのティーンエイジャーが,円盤のなかで見つけた一つ目小僧=インスタントカメラや指おばけ=指紋検出を駆使して,冴えない岡っ引きの代わりに難事件を解決してゆく,というライトめなミステリ.いくら学問好きとはいえ,ルミノール反応や指紋検出キットを初見で使いこなすのはすごい.というか,本格ミステリらしいご都合主義だと思うんだけど,カタカナや英語をやけに多用する軽い語り手が,うまいこと雰囲気を作っていたと思う.科学的捜査にこだわる舟彦と,あまりそういうことを気にしないお星や周囲の人々の対比も良かったと思う.あくまで軽めに書いてるけど,かなり重要なテーマだよねたぶん.良かったです.