今慈ムジナ 『ふあゆ』 (ガガガ文庫)

ふあゆ (ガガガ文庫)

ふあゆ (ガガガ文庫)

「それで、結局ジュゲムは誰なの?」
「ジブンタチは誰かであるが、誰でもない。名前もないと評したいが『名前がない』とジブンタチは観測されるので概念はある。強いて言えば意識の住人である」
ジュゲムの話は要点がまったく掴めない。

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心因性相貌誤認症とは,相手の顔が認識できず,代わりにまったく別の実像で人間の顔を認識するようになる病気.子供の頃の事故が原因で,心因性相貌誤認症を患うようになった少年,龍胆ツクシは,猟奇殺人事件の現場を目撃してしまう.犯人はハシビロコウの頭を持った人物だった.
帯曰く,“自我と認識の問題を巡る、最新の現代怪異譚”という第10回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作.認識されることで「自分」になろうとした「自分たち」の話を,集合的無意識や並行宇宙,怪異,都市伝説,超常現象といった各方面からのアプローチで描いている.煽り文句のとおり,「怪異」を描いたものとしても珍しいものではないかと思う.
テキストに凝りすぎたのか,目が滑りまくる(特に導入部)のが最大の欠点.ただでさえ面倒くさいテーマのうえに,主人公が自意識をこじらせた語り手なので,イラッとすることは間違いない.ただ,物語のきっかけである「心因性相貌誤認症」は,シンプルながらとても自然に描けていると思う.いろいろと詰め込んだわりには,衒学趣味に走ることもなく,案外わかりやすいと思うのよ.導入で受ける印象も,読んでくうちに変わる,のではないかな.最初から最後まで徹底して残酷で,徹底して尖りまくっている.広くすすめはしないけれど,個人的にはとても良かったと思いました.