新八角 『血翼王亡命譚 II ―ナサンゴラの幻翼―』 (電撃文庫)

六つ時の鐘が鳴って、彼が帰る。相変わらず無愛想に、でも手をこちらに振りながら書棚の影に消えていく彼を見送った。
すると静けさがやってくる。大きくて暗い静けさが書庫の底から滲みだす。夕陽が地平線へ消え入る寸前の、命を尽くすような残照が訪れる。
書庫が燃えるようだ。
そして燃えるような孤独があるのだ。

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私を愛せ。
私だけを愛せ。
全てが終わってしまってもいいから、それでも私だけを愛せ。

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「翼人の墓」と呼ばれる街,ナサンゴラへ行くことにしたイルナとユウファたちは,ナサンゴラ出身の行商人,ジルとサーニャの母娘に道案内を依頼する.古い坑道を抜けた先にある街に辿り着いた一行だったが,街に現れた凶兆によって,自警団にとらわれてしまう.
大きな災いに巻き込まれた古い街の,「母娘」を巡る長大なる悲劇.すごかった.類を見ない魅力的な世界をさらに拡げつつ,「親子」に焦点を置いた物語が描かれる.鳥によって造られた世界,生体機械である虫,かつて存在したという翼人.アイデアの面白さにアウトプットがまったく追いつかなかった感のある一巻(感想)から比べると,信じられないほどの長足の進歩が見られる.小説としては粗いところはまだあるんだけど,剣戟(燕舞)や場面の描写はときどきハッとするほど美しい.一巻があれで,二巻がこれだとすると,三巻がどうなってしまうのか,本当に想像がつかない.今のうちに追っておくと自慢できるようになるかもしれないぞ.