松村涼哉 『おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界』 (電撃文庫)

「お願い、陽人。わたしのために闘って……大村音彦を、わたしの前から消して」

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ある恐喝事件がSNSで話題になっている.一人の高校生が,六人の中学生を恐喝し,現金を脅し取っているという.被害金額は累計で3023万円,恐喝魔の名前は大村音彦.しかし俺はそれが悪質な嘘だと知っている.なぜなら俺が大村音彦だから.
逃げる少年=恐喝魔,対,SNSを使って追いつめる少女=暴行犯.誰も幸せになれない一晩の逃走劇.夜の街を舞台に,数時間で事態は二転三転してゆく.ピカレスクロマンと呼んでいいのかな.デビュー作(感想)と同様の,いじめからはじまる現代的なテーマのやつかと思ったら,描かれるのが手加減のない乾いた暴力だったという.互いが互いを追い詰めて,真相が明らかになる過程は手に汗握る良いサスペンス.登場人物が嫌なヤツばかりだし誰も信じられなくなる.実に後味悪くてそこが良い.気持ちのいい話ではないけど,個人的にはなんかとても好きなんだよ.