黒石迩守 『ヒュレーの海』 (ハヤカワ文庫JA)

ヒュレーの海 (ハヤカワ文庫JA)

ヒュレーの海 (ハヤカワ文庫JA)

「一つだけ訊きたい」
哀しみとも悔みとも取れる表情だった。
「私は『人間』だったのだろうか?」
「その疑問を抱けるやつは『人間』だ」

ヒュレーの海 (ハヤカワ文庫JA) | 黒石 迩守, Jakub Rozalski |本 | 通販 | Amazon

“混沌”(ケイオス)に覆われ,壊滅してから長い時間が経った世界.人類はホモ・サピエンスを脱し,物理空間の基底現実(BR)情報空間(インフォスフィア)仮想現実(VR)というふたつの現実を生きるようになっていた.ギルドで育った発掘屋(サルベージャー)の少年ヴェイと少女フィは,地球の記録(スフィア・ドライブ)から発掘した大昔の海の映像を見て,本物の海を探すことを約束する.
世界は情報で出来ている,という第4回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作.人類にしか出来ない〈妄想〉が世界を変え,壊滅した地球をサルベージする.それを為すのは海を探す少年と少女.独自の用語とカタカナのルビがギュッと詰め込まれており,ああこれこそサイバーパンク,みたいな.情報の過剰な詰め込みととっちらかり,後半のインフレがいかにもSFの新人賞という感じで,新しさより安心感を覚えるタイプではある.なんだかんだと前向きなのはいいよね.個人的には,第4回の受賞作ではいちばん良かったと思います.