吉田エン 『世界の終わりの壁際で』 (ハヤカワ文庫JA)

世界の終わりの壁際で (ハヤカワ文庫JA)

世界の終わりの壁際で (ハヤカワ文庫JA)

「そう。コーボは確かに、不安を抱き、恐れもすれば、喜びもする。そう、コーボには本物の〈心〉がある。それを封鎖することも試みたが、脳の構造を模倣する限り、思考と心は不可分だった。著しい機能低下を招いて、その辺の人工知能より何倍も性能が落ちる結果になった」

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大規模な環境変動を経て,東京はかつての山手線を取り巻く巨大な城塞都市,〈シティ〉とそれ以外とに分かたれていた.壁の外側で育った少年,片桐音也は,VRゲームでわずかな賞金を稼ぎながらいつか〈シティ〉に入ることを夢見ていた.音也はある日,教会で白髪の少女,雪子と,エスペラント語を話す人工知能,コーボと出会う.
巨大な壁の向こう側にあるものとは.そして世界の終わりに際して,人類にできることとは.ボーイ・ミーツ・ガール&ボーイ・ミーツ・人工知能から始まる,第4回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作.アイデアがゴチャっと詰め込まれていて,これまたいかにもSFの新人賞らしい作品だけど,大枠はかなり古いタイプのSF小説だと感じた.選評に書かれていることとだいたい被るのだけど,賞金を稼ぐ手段としてのVRゲームと,学習して心を持つ人工知能と,格差が広がって〈シティ〉の中と外で互いを知ることもなくなった東京がうまくひとつに繋がっているか,というと微妙かもしれない.密かな終わりに瀕した世界と言いながら,大きな世界が感じにくいというか.