紺野アスタ 『尾木花詩希は褪せたセカイで心霊(ゴースト)を視る』 (ダッシュエックス文庫)

「……夕陽は赤い」
何を当たり前のことを。
「でも感じない。わたしの世界は灰を被ったように、彩がない」
尾木華は哀しげに俯いた。
「わたしは、集めているの……キレイの欠片を」

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廃墟と化したデパートの屋上遊園地で,久佐薙卓馬は古いフィルムカメラを持った少女,尾木花詩希と出会う.心霊写真を撮り集めていると噂されていた詩希に卓馬は,屋上遊園地に出ると言われる“観覧車の花子さん”の写真を撮ってほしいと頼む.しかし,詩希は幽霊なんていないと断る.
「なくした世界の欠片」を集める少女と,幽霊に会いたい少年の青春小説.普段はゲームのシナリオライターということもあるのか,まずキャラクターが生き生きとしている.基本的に無表情だけど小動物チックなヒロイン詩希といい,引きこもりの園芸部員こもりんといい,それぞれ漫画的だけど魅力的.観覧車にまつわる一連の事件だったり,彩を失った詩希がそれを取り戻していく過程だったりといったストーリーは,キャラクターの魅力に牽引されて形をつくっていく印象.変なけれん味もないので,ひたすら可愛いだけだった尾木花が,自分の世界を取り戻して成長して可愛くなっていくさまを存分に愛でられる.作者の意図した読み方ではない気もする(あとがきでは写真へのこだわりを語っていた)けど,必要以上の衒いがないのも良いところなのかな.楽しませていただきました.