宮内悠介 『カブールの園』 (文藝春秋)

カブールの園

カブールの園

この映像からは、有名な一節が省かれている。確か、レーガンはこう発言したはずだ。砂浜に流れた血の色は、皆同じだった。アメリカとは、世界唯一の国である。人種ではなく、理念によって立つ世界唯一の。背後に多言語社会を持つにもかかわらず、いや、そうであるからこそ、我々は世界において力を得たのだ、と。
映像が巻き戻った。

カブールの園

日系アメリカ人の女性エンジニアが自分のルーツとなる地を訪れる「カブールの園」,ニューヨークに捨てられた日本人の姉弟のその後を描く「半地下」の中編二篇を収録.「わたしたちの世代の最良の精神」はどこにあるのか.アメリカの現在と,作者をかなり投影したと思われる語り手たちの心情が,情景が心にじわじわ染みてくる.技巧を凝らしている印象はないんだけど,なんだろう,まさに帯にあるような「打算なしの裸」を見ているんだろうなと思わされた.