大澤めぐみ 『ひとくいマンイーター』 (スニーカー文庫)

ひとくいマンイーター (角川スニーカー文庫)

ひとくいマンイーター (角川スニーカー文庫)

「長い栗色の髪をした美しい少女は、なにものにも囚われないの。長い栗毛の美少女はすべてのものごとから完全に自由でないといけないから」
自身に満ちた表情で、胸を張って顎を上げて、センスのないスカジャンのポケットに両手を突っ込んでそう言い切る小海は、本当に栗毛の美少女で、完全無欠の完璧な栗毛の美少女で、恵は、ああやっぱり自分はこの人のことが好きなんだな、と感じる。ひょっとして、この完全無欠に完璧な栗毛の美少女と友達になれるのだろうか、この人の隣に自分が立っている、そういう未来もあり得るのだろうかと考える。

ひとくいマンイーター (角川スニーカー文庫) | 大澤 めぐみ, U35 |本 | 通販 | Amazon

魔法少女,廻沢小海は栗色の髪をした美しい少女である.明科恵は同じクラスのクラス委員長だった.これはふたりの少女が死に,ひとりの少女が生まれる物語である.この物語は,死体なき殺人現場から始まる.
魔法少女対人食いマン.魔法少女サワメグと人食い鬼アズの出会いを描く,『おにぎりスタッバー』(感想)の前日譚にあたる続編.波打つようにキーワードを繰り返す,必要以上に密度の濃いテキストは変わらず.ちょっとした仕草だったり,天井の家鳴りだったりといった,執拗だけど読みにくいわけではないテキストから,キャラクターたち,特に語り手のサワメグの人物像が,だんだんと掘り下げられて浮かび上がってくる.相手に対する認識や人間関係は少しの出来事で改まり,誰かからの借り物だった言葉は自分のものになる.世界よりも人物に注力した物語だと思っているのだけど,この掘り下げ方はなかなか見られないものだと思うし,それをしっかり成功させていると思う.ラストの場面が,『おにぎりスタッバー』で個人的にいちばん好きな場面にそのままつながっているのがとても良かった.おかげで,嫌でも記憶に残る物語になってしまったのがちょっと癪.とても良い青春物語だと思います.