酒井田寛太郎 『ジャナ研の憂鬱な事件簿』 (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (ガガガ文庫)

しかし、状況は変わった。すでに第二週号の発刊は叶わない。我々の記事がついぞ読者の手に渡らなかったことは誠に残念ではあるが、事情を鑑みればやむを得ないだろう。沈黙もまた、一つのジャーナリズムだ。

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100年の伝統を誇る海新高校ジャーナリズム研究会,通称「ジャナ研」.唯一の部員である工藤啓介は,他人から好かれず嫌われずをモットーに,無難な高校生活を望んでいた.ところがある日,琥珀色の瞳を持つ先輩・白鳥真冬と出会うことで,彼はいくつもの事件に巻き込まれることになる.
残されたのは「Good Bye, Bloody Demon」という謎の言葉.第11回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作は,ガガガ文庫より創元推理文庫や角川文庫が似合いそうな正統派の青春ミステリ.ストーリーにはそれほど尖ったところはないと思うのだけど,その代わりというか,日常の描写は厚くなっている.キャラクターの心の機微だったり,ジャナ研の100年の伝統や,横浜を中心とした学園生活の描写は本当に丁寧.「真実なんて綺麗なものじゃない」という,ある意味ありふれた言葉にもしっかりした重みが出るというもの.そして何より,ヒロインで先輩でお嬢様である白鳥さんがとても可愛らしいのが素晴らしいことだと思うのですよ.身も蓋もないことを言ってしまうと,『氷菓』とか好きなひとは読んでみるといいかもしれない.