十字静 『図書迷宮』 (MF文庫J)

図書迷宮 (MF文庫J)

図書迷宮 (MF文庫J)

さようなら。

あなたの人生は、ここで終わってしまいました。

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あなたは図書館都市アレクサンドリアの地下迷宮を,少女とともに逃げていました.あなたには記憶がありません.あなたは失った記憶を取り戻し,父の仇を取らねばなりません.

10回MF文庫Jライトノベル新人賞三次選考通過作.二人称で語られる吸血鬼と記憶の物語.1000ページに渡る〈本〉を表現するのに,物理的に500ページの物量を用意したり,珍しい二人称小説だったり(二人称の理由はすぐに明かされる),いろいろと面白い試みをしている.「本」という形式を活かした,メタフィクション的な仕掛けも意欲的で良い.ただ,ストーリーはその仕掛けに追いついていない印象で粗も多い.吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)や図書館都市といったガジェットはどこかで見たようなもの.二人称からくる描写のぎこちなさがあるし,ページの量に合わせて引き伸ばしていると思われる部分も目立つ.やりたいことにまだ技量が追いついていないという意味で,新人賞らしい熱のこもった作品だと思いました.次も楽しみにしております.