北野勇作 『大怪獣記』 (創土社)

大怪獣記 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)

大怪獣記 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)

恐竜でも怪物でもなく、怪獣。

その感覚は本当によくわかるのだ。

ある日,作家である私は,初対面の映画監督から映画の小説化を依頼される.要はノベライズだろうかと訊ねると,そうではなく「映画の小説化」であるという.この町を舞台にした企画書には「大怪獣記」というタイトルが書かれていた.

北野勇作の描く怪獣小説.クトゥルー小説でもある.未完成のシナリオを受け取り,映画の撮影に付き合いという日々の中で,夢と現実と虚構と過去が入り混じってゆく.懐かしさと空虚さが混在するいつもの北野勇作の作風なんだけど,「怪獣」が登場するフィクションに何を求めるかというこだわりが強くにじみ出ていたと思う.「恐竜でも怪物でもなく」あくまでも大怪獣であり,あくまでも「映画の小説化」という部分にこだわる監督の姿が印象に残った.なるほど,こういうのも怪獣小説なんだなあ.