石川博品 『先生とそのお布団』 (ガガガ文庫)

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

先生がうなずく。「いいぞ、その意気だ」

「あれ? 『天狗になるな』とかいわないんですか?」

「すべてが低水準なのだからせめて鼻くらいは高くしておいてやりたい」

「優しさですねえ」

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デビューしてから一度も売れたことのないライトノベル作家,石川布団.スーパーのバイトでなんとか食いつないでいた彼は,人語を解する不思議な猫の「先生」と一緒に暮らしていた.

2012年から2017年にかけて,売れない三十路作家の石川布団と先生ことしゃべる猫の共同生活を描いた私小説風小説.調子に乗っては叱咤され,書けなくなっては励まされ,打ち切られては励まされ,失恋しては励まされ,という優しい日々をユーモアたっぷりに描いている.語り口は非常に静かで淡々としているのだけど,「売れない作家」の悲壮感はほどほどにオブラートに包まれており,全編に優しさが溢れている.本当は優しいだけの日々ではなかったんだろうな,というのは作者のことを知っていれば容易に想像できる.でもオフトンの眼を通して見れば,先生と過ごした時期は幸せなものでもあったんだろうな,ということも想像できてじわっとしてしまった.とても良い私小説でした.

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