樋口恭介 『構造素子』 (早川書房)

構造素子

構造素子

そのときこの場に新たな構造素子が生成され、新たな構造が生成を開始する。

そのときこの場に新たな世界が生成され、新たな宇宙が生成を開始する。

あなたはあなたの言葉を書き始め、あなたの言葉があなたを書き始める。

あなたと呼ばれる構造素子。そこから始まる全ての構造。

これはあなたのための構造だ。

エドガー・ロパティンの父,ダニエル・ロパティンは,H・G・ウェルズやエドガー・アラン・ポーに私淑する売れないSF作家だった.彼の死後,エドガーは未完の草稿『エドガー曰く、世界は』を母から渡される.

第5回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作.父と子の物語であり,書くこと,語ることそのものについての物語でもある.物語はいきなりL-P/V基本参照モデルなる宇宙の階層構造モデルの説明から始まり,そこから,人類の滅亡と二度目の人類の誕生,並行宇宙,スチームパンク,言語SFなどなど,ありとあらゆるSFの要素へと展開する.

選評でも言われているのだけど,かなり難しいしわかりにくい.最初の印象は「真面目な円城塔」.どことなく神林長平を連想したりもした.「なるほど……なるほど?」みたいな感じで,よくわからないなりに面白く読んだ.巻末の梗概が理解の助けになった(ネタバレにあたるので最後に読むのがいい)のだけど,これはもともと作品の一部だったのかな.帯の言う「現代SF100年の類い稀なる総括」も,決して大げさな話ではないと思う.